地層

建築のデザインと地盤について 

建築のデザインを考える際にその建物が建つ地盤について知ることは、地震が身近にある日本の建築にとってとても重要です。今回は地盤についてのお話をしたいと思います。そして地盤を形成する地層、その長い年月と建築デザインが融合した実際の素晴らしい建築物の事例を紹介します。

地盤について

建築物を建てるためには当然、安定した地盤に建てることが必要です。安定した地盤とは沈下しにくい、液状化しにくい、崩れにくい地盤ということになります。これらの点を判断するためにしっかり締め固められた地盤であるか、それを構成する土質はどうか、地中の水分量がどうか、ということを地盤調査によって調べます。地盤調査には様々な方法がありますが、代表的な調査としては「標準貫入試験」と呼ばれるものがあります。これはその調査ポイントの地耐力を調べるだけでなく、地中からサンプルを採取することが可能です。その採取したサンプルの含水比を調べて液状化しやすいかどうかを調べたり、圧力をかけて地耐力を試験したりします。このように地盤の特性を調べることで適切な基礎を計画できるようになります。

地盤は何千万年も前という遥か昔からの時間とともに何層もの地層が重なり、形成されてきました。大切な建物を支える地盤であるからこそ、普段は目に見えず、捉えにくい側面もありますが、しっかり調査することが重要です。建築デザイン以前に、その土地を知ること、安全に十分配慮することが建築を考えるうえで大切なことだと考えています。

そんな地盤についての話は尽きないのですが、地盤を形成する地層の種類とそれらが構成された遥か悠久の時の流れと建築が融合した素晴らしい事例をご紹介します。

地層の種類

地層はその層に含まれる土の粒子の大きさによって粘土層、シルト層、砂層、礫層に分けられます。また、それらがいつ堆積したかにより大きく分類すると3つの年代に分けられます。ここでは年代区分による地層の種類のご紹介をいたします。

第三紀層

5000万年から200万年前に形成された地層と言われています。遥か昔、かつその期間なんと4800万年間という相当な期間で括られていますね。この頃に形成された地層は砂岩、泥岩などからなる岩盤で、建築物の支持地盤としては最も信頼できる層とされています。ちなみにこの期間に地殻変動によってヒマラヤ山脈が形成されたり、伊豆半島の衝突により富士山、箱根の大噴火があったり、世界で5番目に古いといわれている琵琶湖が形成されたりしたそうです。アウストラロピテクスというサルではなくヒトとされる生き物の登場は370万年から100万年前と言われています。

洪積層(こうせきそう)

100万年前から1万年前に形成された地層と言われています。先の第三紀の次、第四紀(200万年前から現在)の区分の前半にあたる地層で建築地盤として安定した地盤とされています。第三紀、第四紀というのは地質学上の区分です。台地や丘陵地帯に分布しています。

沖積層(ちゅうせきそう)

地質学上もっとも新しい時代、とはいえ堆積したのは約2万年から1万年前の時代の地層です。比較的軟弱な地盤としてみられています。平野部に分布しており、地質としては粘土層、シルト層、砂礫層で構成されています。ざっくり2万年ほど、洪積層の年代と被っていますが年代は同じでも場所や地層を形成する様々な要因のちがいにより、安定地盤といわれる洪積層か、不安定地盤とされる沖積層となるかの違いが生じるのでしょう。

シルトというのは聞き馴染みがないかもしれません、これは粘土と砂質土の間の性質をもった土です。粘土はズルッと滑ったり、砂は水を加えれば浮遊して泥水となってしまったりするイメージはないでしょうか。これらの地層が重量のある建築をどこまで支えられるか、支えられなければどう対処するかということを建築設計の初期に地質調査、土質試験の結果で判断しています。

地層と建築の融合 年縞博物館

建築の計画においてそれを支える地盤は大変重要であり、建築の基礎や杭といった構造デザインにも大きく関係してきます。地盤を構成する地層の種類も簡単にご紹介させていただきました。ここまで読んでくださった方は今、遥か太古に思いを馳せたり、普段は見えない地中の世界を想像していたりと建築デザインと同じように地盤にも興味を持っていただけたらとてもうれしいです。そんな方に是非おすすめしたい素晴らしい建築事例をご紹介いたします。福井県にある 年縞(ねんこう)博物館です。

福井県年縞博物館
福井県年縞博物館

所在地 福井県三方上中郡若狭町鳥浜122-12-1

設計  内藤廣氏

年縞とよばれる縞模様状の地層の堆積(7万年分、45m!)を見ることができます。2021年に中部建築賞、2023年にも公共建築賞 優秀賞を受賞しています。こちらの建築は周囲の自然と調和し、かつ展示物である年縞がもつ悠久の時の流れを感じられると評価されています。広大な公園の中に建つ三角屋根を持った美しい建物です。若狭三方縄文博物館に隣接しており、大きな三角屋根、壁面が少ないデザインは、竪穴式住居のフォルムにも似ているように感じます。興味を持っていただけましたら是非行ってみてください。

建築デザインというと地上の形態を示すことが多いと思いますが、その建築を支える地盤を知ることで基礎や杭などの地中構造を検討することができます。その過程で基礎構造にも安全性や経済性を実現するためのデザインがあります。基礎構造のデザインは地盤同様に目に見えにくいところではありますが地上部分のデザインを実現するため、そこで過ごす人々の安全を確保するため、とても重要なデザイン過程なのです。建築デザインにおいて地盤も重要!そして年縞博物館はおすすめです!ということが伝われば幸いです。ここまでお読みいただきありがとうございました。