衛生的な生活をする上で洗濯は必要で重要なことの一つでしょう。住宅の計画において洗濯スペース、干場スペースも居室の部屋数、その広さと同等にしっかりと検討するべきポイントと考えています。その際に住宅やマンションにおける洗濯および干場は、環境、空間、そしてプライバシーを考慮した検討が必要です。今回は洗濯物と建築という切り口でそのデザインについてお話いたします。
洗濯スペースはフェーズごとに考えよう
洗濯にはさまざまなフェーズがあります。住宅では脱衣、洗濯、乾燥という大きく3つを挙げることができるでしょう。補足するなら洗濯終了後の収納もそこに加わります。一般的には次の点を考慮して最適解をデザインするとよいでしょう。
フェーズ1 脱衣
脱衣スペースはその後の行動から浴室、シャワールームのそばであることが一般的でしょう。脱いだ服をスムーズに次のフェース、洗濯へ移すために脱衣スペースに洗濯機があることが大半だと思われます。ここでのデザインポイントは洗濯の仕方に配慮することで見えてきます。洗濯を衣服の種類や汚れの程度に分けて行う場合がありますので脱いだ服をそれぞれに分けて置いておける複数分のラインドリーバスケットのスペースを確保した上で脱衣ができるスペースの確保をすることが望ましいでしょう。
フェーズ2 洗濯
当然ですが洗濯機のサイズ、縦型かドラム型かという確認が必要です。また、洗濯雑貨として必要な洗剤、柔軟剤、漂白剤、ハンガー、洗濯ばさみといった多くの物の収納スペースも考慮する必要があります。また、子供がサッカーや野球など土が付きやすい活動をしているご家庭や作業着などがある場合、洗濯機で洗う前に予洗いをしたいこともあるでしょう。その場合、一般的な洗面台では高さが低く、腰が痛くなることがあります。洗濯をする場は洗面脱衣室、家事室、洗濯室などその空間に求める使い方や許容される広さにもよりますが、洗濯はほぼ機械がしてくれるものですが、それを使うのは人の日常的作業が苦痛にならないように使いやすい空間をデザインしなければいけません。
フェーズ3 乾燥
乾燥は、自然乾燥か、機械乾燥の2つに大別できます。まずは自然乾燥の場合のポイントを挙げます。
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日当たり: 太陽の光と風が直接当たる場所は、洗濯物を早く乾かすことができ、紫外線の効果で雑菌も減少します。しかし、直射日光が強すぎる場所は色褪せの原因になるので注意が必要です。
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風通し: 良好な風通しは乾燥を助けるだけでなく、臭いの原因となる湿気を遠ざけます。
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プライバシー: ベランダや窓辺に洗濯物を干すと、他の住民から見える可能性があります。プライバシーを保ちたい場合は、目隠しを検討したり、洗濯物を内側に寄せるなどの工夫が必要です。
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空間: 使用するスペースに合わせて、干し竿やハンガーのサイズを選びましょう。限られたスペースを最大限に利用するための多機能な干し具や収納方法も考慮に入れると良いでしょう。とくに、外に干さず室内干しをする場合、限られたスペースを有効活用でき、かつ干している間は他の日常生活の妨げにならないよう配慮が必要です。室内干しの場合、花粉や粉塵の影響を受けにくいですが、湿気がこもりやすくなり、部屋の湿度が高くなると、カビやダニの発生リスクも高まります。適切な通風や除湿は必須として合わせて検討が必要です。
次に機械乾燥の場合のポイントを挙げます。
乾燥機のタイプ、機械を設置するスペースとその空気環境への配慮が必要です。
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排気型乾燥機: このタイプの乾燥機は、室内の空気を取り込み、加熱して湿った洗濯物を乾燥させた後、湿気を含んだ熱気を室外へ排出します。適切な排気口を設けることで、室内に熱気や湿気がこもることを防ぐことができます。
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熱交換型乾燥機: このタイプは、湿気を冷却して水として取り除き、乾燥した空気を再び洗濯物に送り込むシステムです。そのため、室内に大量の湿気が放出されることは少ないですが、機器の動作により一定の熱が放出されることはあります。
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設置場所: 乾燥機を室内に設置する場合、良好な通風と排気計画が必要です。特に機械が排気型の場合、排気口が室内や隣地の窓に向いていないかの確認は重要です。そして窓や扉を開けることで十分な通気を確保できるかを検討する必要があります。
総じて、乾燥機を室内に設ける場合、熱気や湿気に関する問題を考慮して、適切な設置場所や通気策をデザインすることが必要です。
花粉シーズンや粉塵が多い環境での屋外干しは、洗濯物にこれらの微細な粒子が付着するリスクが高まります。特にアレルギー体質の人や敏感肌の人は、これらの粒子が原因で皮膚トラブルや呼吸器系の症状を引き起こすことがあります。これまで頂いた設計の機会においても乾燥機の使用を選ばれる経験が何度もあります。乾燥機を使用すれば短時間で昼夜問わず洗濯ものを乾かすことができるというメリットも洗濯理由の一つです。しかし、乾燥機の使用は電気代コスト、スペースの確保といった面を合わせて考慮する必要があります。
自然乾燥も機械乾燥もそれぞれの方法にメリットとデメリットがあるため、住まいの環境や状況に応じて最適な方法を選択することが大切です。
住宅以外の建築と洗濯物の関係事例
ここまで住宅を主軸に話をしましたが、生活の場ではない、店舗建築において、洗濯との関係性はどうでしょうか。洗濯が生じる店舗建築の例としては理容室、美容室が挙げられます。ここからは洗濯物と美容室のデザインをお話しします。
美容室の設計において、タオルの洗い場や干場の検討は非常に重要です。業務効率や店舗の美観の観点から、次のような理由でその重要性が強調されます。
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業務効率: 美容室では多くのタオルが日々使用されます。効率的に洗濯・乾燥ができるスペースが確保されていると、スタッフの作業の流れがスムーズになり、顧客へのサービス提供にもポジティブに影響します。また、洗濯物を遠くに運ぶ手間が削減されることで、スタッフの負担も軽減されます。
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美観: タオルの洗い場や干場は、顧客から見えない場所に配置するか、または適切に隠蔽するデザインが求められます。美容室は清潔感や高級感が求められる業態であるため、乱雑に見える空間は避けるべきです。タオルが適切に管理され、店内が整然としていることは、顧客の信頼やリピート率にも寄与します。見た目と合わせて、洗濯機、場合によっては乾燥機もふくめてその稼働音が接客ゾーンにおいて聞こえないようにする配慮も必要です。
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衛生面: 住宅の場合と同じく、湿気がこもりにくい設計や、良好な通風を確保することで、カビや雑菌はもちろん、においを防ぐことが重要です。洗い場や干場を適切にデザインすることは、タオルの清潔さを保つ上で非常に重要となります。
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スペースの有効活用: 限られた店舗スペースの中で、タオルの洗い場や干場を効率的に配置することで、他の業務スペースや待合スペースなども確保しやすくなります。間取りの検討の際には接客ゾーン、スタッフゾーンを明確に分け、かつ円滑な動線設計とすることで業務効率の向上、来客空間の高品質化を目指します。洗濯物はスタッフゾーンに属する要素ですが、そこをうまくデザインすることで接客ゾーンが良好な空間になるという重要なポイントになっています。
まとめますと、美容室のデザインの際にタオルの洗い場や干場を適切に検討することは、業務の円滑化、店舗の品質向上、顧客満足度の向上に直結します。これらの要素は美容院の成功に不可欠な要素であるため、計画段階から十分な配慮が求められるということになります。
いかがだったでしょうか。洗濯物と建築デザインは結構深い関係であるのです。洗濯スペースをうまくデザインすることで、そこで生活する人や働く人、サービスを受ける人みんながより幸せになれる!と言っては言い過ぎでしょうか‥。どんな建築にも表面と裏面があります。洗濯物はランドリー工場やコインランドリーを除けば、裏側にあるものでしょう。それでもそのためのスペースを丁寧にデザインすることで全体的によい建築となり、人が過ごしやすくなる、人に優しい関係性をもたせることができると考えています。