今回は工場建築において生産性と安全性を確保するために考慮すべき重要なポイントをご紹介します。
1. レイアウト設計
効率的なワークフローを確保するための適切なレイアウトは、生産性の向上に直結します。工場におけるワークフローには搬入、検品、生産、検品、出荷、そしてそれに伴う事務作業スペースが必要となります。搬出入や検品、生産には製造するものの種類によって必要スペースの規模が変わりますのでクライアントと設計者の十分な打ち合わせが必要となるでしょう。また、搬出入の際は大型トラックが出入りすることも考慮し、出入口と敷地内の安全性にも注意が必要です。
2. エルゴノミクス
作業者の健康と安全を考慮し、機器や作業スペースの設計を行う必要があります。はて、エルゴノミクスとは?これは人間工学というものです。え?人間工学ってなに?という疑問が生じましたか?それは人の骨格や筋肉の動き、標準的な動作の寸法体系のことです。そしてこれを考慮することが動作しやすく、怪我や慢性的な腰痛を防止するためにはどうしたらいいかという検討において基礎となる考え方です。機械を安全に稼働するために周囲の空きスペースも配慮してゾーニングすることもこの中に含まれます。工場では機械が生産の大半を占める場合でもそれを稼働するのは人です。また、製造のための事務作業における机と椅子にもこの考え方は重要な点となっています。建築計画において必要な面積や高さを確保する際に、機械や製品の大きさや棚、机の数などに焦点が当てられますが、実はそのさらに深部にはエルゴノミクス(人間工学)を捉えることが安全で健康的な工場とするために重要な点です。
3. 通風と照明
適切な通風と照明は作業者の健康と集中力を高め、事故を防ぐために重要です。通風により室温や湿度を適切に保ち、汚染空気を排除し新鮮空気を取り込むことで空気環境を良好にすることを計画の中で配慮することが必要です。照明による照度は明るすぎても疲労につながり、不足すれば不安全となってしまいます。その場での作業内容に応じた適切な照度を把握し、計画しましょう。通風に関しては、製造するものが精密機器や医療品、食料品などの衛生基準が厳しい場合には機械換気に置き換えることで良好な環境を確保できるでしょう。
4. 自動化と技術導入
ロボットやAIを用いた生産ラインの自動化は、生産性を高めるだけでなく、危険な作業から人間を遠ざけることで安全性も向上します。人による労働工数を減らすことができれば疲労の蓄積が回避されたり、できた余裕により一層安全性への配慮や生産性向上のためのアイデア検討に時間を充てられることになるでしょう。
5.安全対策
火災感知器、消火器、避難経路の設計など、緊急時の対策も万全に行う必要があります。例えば工場での火災は燃料や可燃物の存在が被害を大きくする可能性があります。地震においても積み上げたパレットの崩落や棚からの物の落下などの危険があります。まずはどのような危険があるかを想定することが重要で、それらの課題に対し安全対策を十分に講じることが必要です。また、消防設備も法令に従い設置するだけでなく、管轄地域の消防署との協議も必要です。補足ですが運用の中では避難訓練と設備の定期点検を欠かさず行うことも忘れてはいけないことです。
以上のような要素を組み合わせて考慮することで、生産性と安全性を高める工場建築が可能になります。
次に、事例を紹介します。
製造工場において、優れた建築設計の例はいくつか存在します。一つの例として、メルセデス・ベンツの「Mercedes-Benz Werk Sindelfingen(シンデルフィンゲン工場)」が挙げられます。
1.Mercedes-Benz Werk Sindelfingen
この工場は、ドイツ、シンデルフィンゲンに位置し、メルセデス・ベンツの主要な製造拠点の一つです。この施設は効率性、生産性、持続可能性を重視した設計がなされており、高度に自動化された生産ラインやロボット技術が導入されています。工場内のレイアウトは、融通性と拡張性を考慮して計画されており、異なる車種の生産に対応できるように設計されています。
この工場では、作業環境の改善や労働者の安全にも配慮がされており、エルゴノミクスの観点からも高く評価されています。
さらに環境に優しい技術も取り入れられており、エネルギー効率の良い設備や再生可能エネルギーの利用によって、CO2排出量の削減が図られています。
このような先進的かつ効率的な設計によって、Mercedes-Benz Werk Sindelfingen工場は、製造工場の建築と運営においての模範となっています。
2.トヨタ
トヨタの生産システム、通称「トヨタ生産方式」は、自動車製造業界におけるレイアウト設計の金字塔といわれています。このシステムは、「無駄」を排除し、「一次合格」を目指すことで、生産性を最大化することが図られています。また、「ジャストインタイム」生産システムを通じて、在庫コストの削減と効率性の向上を実現しています。トヨタの工場では、各作業領域が明確に区分けされ、作業者、部品、機械が効率的に配置されています。このような配置は、無駄な動きを削減し、生産効率と安全性を向上させます。
どちらの事例も高度な技術と効果的なレイアウト設計を組み合わせることで、生産性と安全性、さらには高品質を実現させています。
計画する工場の規模や生産品の違いはあるかもしれませんが安全で健康的な工場の計画に必要な原理原則は同様です。要点を押さえ計画に反映し、既存の優れた工場事例を参考にすることで理想の工場を実現することができるでしょう。