工場としての建物と聞いて屋根の形がギザギザと連なった形をしているのを想像したり、実際に見たことがあるかたは多いのではないでしょうか。簡単にイラストを描く場合にも、ギザギザ屋根に煙突を書くと工場に見えてくるような、そんなアイコン的な要素もあるように思います。今回はそのような形の屋根、のこぎり屋根についてご紹介します。
のこぎり屋根の形
名前の通り、ギザギザした形がのこぎりの歯のようであるためそのように呼ばれています。勾配屋根と垂直の壁が連なり、ギザギザなラインをつくりだしています。ではなぜこのような形をしているのでしょう。また、どのようにして発生し、広く普及し、工場としてのイメージとして浸透したのでしょうか。
のこぎり屋根の歴史
のこぎり屋根はイギリス発祥といわれています。時代はイギリス産業革命の頃。日本には近代化を進める中で紡績業の産業技術とともに伝わったそうです。日本においても近代化における大きな産業として紡績業が大変盛んになり、その発展と共に工場が建設され、工場と共にのこぎり屋根が広まっていったという流れがあります。工場は元より生産性の向上や合理性に基づき計画されるものです。特徴的な屋根の形にも合理的な理由があります。昔は今のような高効率な照明器具がなく、室内の明るさを確保するためになるべく太陽の光を取り入れる必要がありました。そこでハイサイドライトを設けた壁が計画されたのです。高い位置に窓を設けることで、上方から室内に広く光を届けることが可能となります。光を取り入れるためであれば天窓もその可能性がありましたが、雨漏れのリスクは高くなったり、太陽光の直接入射が生じたりしますのでハイサイドライトの採用が非常に合理的な手法であったと考えられます。その窓が設けられた高い壁が屋根と繋がり、それが工場の必要面積に応じ水平に連続されることでのこぎり型が現れた、というのが形態誕生の流れといえるでしょう。
のこぎり屋根のメリット
のこぎり屋根の合理性としては壁面にハイサイドライトを備えていることといえるでしょう。この屋根のメリットとしてハイサイドライトが室内にどのような効果をもたらすのかご紹介します。ハイサイドライトは、採光だけでなく換気にも有利なものとなっています。
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自然光の導入: ハイサイドライトは高い位置にあり、日光が建物の奥深い部分まで届きやすくなります。これにより、建物内部全体に均一な自然光を導入でき、人工照明の使用を減少させることが可能です。
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視覚的な快適性: 自然光は視覚的な快適性を提供します。高い位置に窓を設けることで、建物内部に柔らかな光が差し込み、快適な居住空間を作り出すことができます。
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換気と空気の流れ: ハイサイドライトは通常、低い位置の窓と組み合わせて使用されます。これにより、低い位置の窓から入ってきた新鮮な空気が高い位置の窓から外に排出される換気効果が生まれます。建物内部の空気が循環するため、室内の空気が清新な状態を保ちやすくなります。
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温度調整: ハイサイドライトからの日光は、冷暖房の効率を向上させるのに役立ちます。冬季には日光の熱を取り込んで暖房効果を高め、夏季にはブラインドなどの遮光装置を使うことで過剰な熱の進入を抑えることができます。
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建築デザインへの貢献: ハイサイドライトは建物の外観やデザインにも影響を与えます。外観にアクセントを加えるだけでなく、勾配天井と高い天井により内部空間を魅力的に演出することも可能です。

以上の理由から、ハイサイドライトは採光や換気、快適性、エネルギー効率、建築デザインの観点から有利な要素となり得るのです。
のこぎり屋根のウィークポイント
のこぎり屋根の水下側にできる谷部分は、集まった雨を排水するために谷樋、内樋と呼ばれる横樋を設けます。雨水や雪が集まるため雨漏りのリスクが高まる箇所です。さらには落ち葉やゴミも集まりやすく、樋にたまり、塞いでしまうことで雨漏りトラブルにつながりやすくなります。以下に雨漏り防止の手法をいくつか説明します:
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適切な屋根材の選択: 谷部分には雨水や雪が集まるため、耐久性の高い屋根材を選ぶことが重要です。対候性の高いステンレスなどの屋根材や防水処理が施された屋根材を採用することは重要で、漏水のリスクを減少させることができます。
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防水膜の使用: 谷部分には防水措置をしっかりと行う必要があります。下地、屋根構造により最適な防水工事を行う必要があります。
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適切な勾配の確保: 谷部分の勾配を適切に設計することで、雨水や雪が滞留せず、スムーズに排水されるようになります。勾配が不足すると水が滞留して漏水の原因となるため、注意が必要です。
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定期的な清掃、点検: 屋根は太陽光、風雨に常に晒されています。対候性の高い材料の採用が重要ですが、同時にその効果を維持するためにも定期メンテナンスが重要となります。砂埃や落ち葉が溜まってしまうと屋根材の劣化や樋の閉塞を早めてしまい、漏水リスクが高まります。台風、積雪、落葉などその土地ごとの注意事項があり、それに合った清掃や点検を実施することが重要です。
これらの手法と定期的な点検を組み合わせて適切な対策を取ることで、のこぎり屋根の水下側における雨漏りのリスクを最小限に抑えることができます。
のこぎり屋根は紡績工場の減少や工場建築物の近代化などもあり、数は減少傾向にあるようです。しかし近年、建物自体の魅力や今回ご紹介した合理性が再評価され、保存活動が盛んに行われ、再生、再利用の動きもあるようです。例えば建物を再生し、魅力的な複合施設として活用している例として岡山県にある倉敷アイビースクエアが挙げられます。工場のイメージとして浸透しているのこぎり屋根ですが工場に採用されていることが多いことから実際にその空間を中から体験できる機会は多くないかもしれません。もし興味がわきましたら、ぜひ行ってみて下さい。レトロな雰囲気と今回ご紹介したのこぎり屋根の合理性を体感できるでしょう。


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